動物園におけるカピバラの飼育施設のデザイン、飼養、動物福祉、管理環境

カピバラの展示施設をデザインする際は、カピバラの野生状態の行動を引き出すような環境をつくることが不可欠です。最も重要な二つの条件は、大きな池もしくはプールがあることと、いつでも草を食べられる環境を用意することです。

「動物福祉(Animal Welfare)」は全ての良識ある動物園が取り組むべき基盤となります。「動物福祉」を実現するには、動物の管理方法に「行動」に基づいた飼育を適用します。つまり動物に何を提供するかではなく、動物たちの行動を観察してニーズを探ることにより重点を置きます。動物たちの行動はメッセージ性にあふれています。動物たちの一つ一つの行動をつぶさに見れば、動物たちが何を必要としているのか私たちに情報を与えてくれます。行動に基づいた飼育法は、動物たちの健康や心理的充足、自然な振る舞いといったような「動物福祉」が持つ全ての良い要素が含まれます。

展示施設のデザインや環境改善に加えて、私たちは人間と動物の良好な関係を確保しなければなりません。そのためには飼養環境やカピバラの日々の行動に選択肢を与える必要があります。そうすることでカピバラは自分たちで生活をコントロールし、本来の生息地で過ごしているかのような生き生きとした姿を見せるでしょう。

飼育員はカピバラをコントロールしようとしないことです。カピバラのようなげっ歯類はとりわけコントロールされることを嫌います。飼育員はカピバラの行動を理解することに努めます。カピバラの機嫌に敏感になり、カピバラの動作から何を伝えようとしているのか読み取らなければ、カピバラはストレスを感じてしまいます。カピバラの行動を理解するため、飼育員はカピバラの世話に専念しなければならないでしょう。群れの中での個体間の関係を学び、その関係の変化に注意を払いましょう。彼らの行動の違いを見分け、その意味を理解できるようになる必要があります。有能な飼育員は動物の行動を直感的に理解できます。そういった飼育員は洞察力が高く、賢いでしょう。忍耐強さも持ち合わせており、カピバラの行動に興味を持ち、観察することに長い時間を費やします。人間とカピバラが相互に良好な影響を与えることが、飼養下にあるカピバラに良い福祉環境を提供するための基礎となります。そのような環境にいるカピバラは人間を信頼し、給餌や小屋、つがいを見つけて交尾する機会、他の個体との関わりなど、自分たちのニーズを全て満たしてくれることを期待するでしょう。もしカピバラに対して、私たちが無責任でネガティブ、気まぐれ、あるいは強引に接すれば、カピバラにかなりのストレスを与えることになるでしょう。

私たちは自分たちの行動がカピバラの生態にどう影響するのか、常に意識することが極めて重要です。動物学者ヴィッキー・メルフィーと「動物福祉」の研究者が2009年、動物園の「動物福祉」に関する知識やアプローチには大きく三つの思い違いがあることを指摘しました。そのうち二つがカピバラに関連するものです。①劣悪な福祉環境を表す指標にばかり注意を払っていると、劣悪な福祉環境ではないということを“良い福祉環境”と見なしてしまいがちです。しかしながら、劣悪でないという福祉環境は、必ずしも良い福祉環境だということを意味しているわけではありません。動物の飼育施設や飼養方法は、その動物が何を必要としているかという視点で捉えることが重要で、人間の視点から考えることではありません。

動物園は伝統的に片付けやすさや掃除のしやすさ、小屋の構造といった人間の要望に応えた衛生的な飼育施設を建設します。しかし、それはあくまで展示施設としてデザインされたもので、動物たちの心理的な必要性に応えるものではありません。しかし、今日のように動物が人間とは大きく異なる行動様式を持っていることが解明されるのに伴い、伝統的な飼育施設を造りかえる良識ある動物園もあります。動物の生態を理解するには、その動物にふさわしい住環境と飼育方法を提供することが欠かせません。動物たちの自然な行動は数百万年にわたる進化を遂げ、その進化が成功をおさめた結果、その種が生き残っているということを覚えておくことが大切です。

飼育する柵の広さはカピバラ15頭の群れに対して4000㎡~5000㎡が適切です。飼育施設のサイズは群れの大きさ次第です。景観はできる限り遠くまで野生のカピバラの自然な習性を反映したものにすべきです。カピバラは半ば水中に暮らし、水中でとてもエネルギッシュに遊んだりして過ごします。それゆえ木々や林に囲まれた大きな池やプールが用意されなければなりません。また、カピバラは草食動物で、草が彼らの主食ですから、草をはめる場所に自由にアクセスできるようにしなければいけません。

カピバラの飼育員は、カピバラの行動や動物福祉学に強い興味を持ち、理解することも必須です。飼育員はカピバラの観察に時間を費やすことで、カピバラの行動を認識し、個体間の関係を理解することができます。群れが最も幸福な状態にあり、けんかを避けられるよう世話するために、飼育員は知識が必要となります。飼育員はカピバラの体長や重さ、毛並み、食べた餌の量、歯の異常、噛んでいる様子を調べ、少しでも異常な行動が見られないかどうか、一頭一頭のコンディションをじっくりと観察するべきです。もし健康上の課題があれば、初期段階で治療することができるでしょう。

empty pond who stole

池もしくはプールは、上の写真のように掃除の際に水を抜いたら、カピバラが池に出入りしやすいように岩棚や踏み石の配置を工夫しましょう。カピバラが岩棚に座って、体の一部が水中に入った状態で休めるようにします。

飼育されているカピバラは、必要な食餌が取れるように人工飼料(ペレット)や適当な野菜を与えましょう。飼育施設では全てのカピバラが確実に十分な量を食べられるように、カピバラごとの餌付け場所を確保すべきです。もし群れのカピバラが餌を取り合うようであれば、けんかにつながります。いったん群れの中でけんかが勃発すれば、けんかをなくすのはほとんど不可能です。このような理由から、餌をめぐるカピバラの争いを引き起こさないように、餌やりには最大限の配慮がなされるべきです。また、飼育員は群れの中で底辺の立場にあるカピバラが十分な食事が取れるように、そばについて見守る必要があります。そうでもしなければ、より体が大きく、順位が上位のカピバラが他のカピバラを脅したり、追い回したりして餌付け場所から遠ざけようとするでしょう。

WN scent marking capybara straddling plant for a blog

複数のカピバラ研究員によると、南米の野生の生息地では雌の順位争いは確認されていないそうです。しかしながら、柵によって行動が制限され、食べ物や設備をめぐってカピバラ同士が争わなければならないような飼育下にある場合、強い雌がヒエラルキーを築くことがあります。飼育員は順位の下位にいるカピバラを観察し、彼らが健やかに生活できるよう努めるべきです。とりわけ雄のカピバラは順位で統制された環境を好み、自分の子どもも含めて同性のカピバラに対してとても攻撃的です。写真が示すように、カピバラは肛門にある臭いの内分泌腺を枝や草木にすりつけて縄張りを印します。もし1頭のカピバラがひどい怪我を負い、怪我から回復するまで群れから引き離して別の囲いに隔離した場合、そのカピバラを再び同じ群れに戻すことはおそらく不可能でしょう。カピバラは群れの順位が自分より高いカピバラが怪我を負っている際に攻撃しやすいのです。

「飼育施設のエンリッチメント(Enclosure Enrichment)」

飼育施設を環境面でも認知科学の面でも豊かにするという意味の「飼育施設のエンリッチメント」の目的は、飼育している動物たちの幸せを確保することです。「飼育施設のエンリッチメント」は動物たちに選択肢を与え、興味深く刺激のある生活を送ることにつながり、野生にいるような自然な行動を促します。

WN Crop Aoba Milk Pond PLay 05 Jul 2017 055

池やプール:飼育施設の物理的なエンリッチメントは、大きな池やプールがあることが絶対です。カピバラは池またはプールをいつでも利用できるようにするべきでしょう。カピバラの数にもよりますが、池やプールの大きさは4m×8mは必要です。水深は最低でも1・3m必要です。ただ、場所によって0・3m~0・6mと浅くすることで、カピバラは体の一部を水に浸した状態で休めて、容易に池やプールに出入りできるようになります。カピバラは気温が高い日は、水に入って体温を下げて涼しく過ごします。

また、カピバラは危険から逃れるために水を利用することもあります。飼育されているカピバラが仲間から追い回される場面がありますが、水の中に避難する様子も見られます。もしカピバラが何らかの理由で怪我をしている場合、そのカピバラは根元から歯が折れている可能性があり、自分が弱っていると感じて水中に避難しようとするでしょう。(カピバラの高冠歯は常に成長し続け、折れた歯は2週間で元の長さまで伸びます。)カピバラは遊び好きで、池やプールの中ではとても活発です。池やプールはカピバラが体を動かし、野生本来の行動をとるのに十分に大きいことが不可欠です。

 シェルター:日差しや暑さ、雨などを避けるため、飼育施設内にはいくつかのシェルターも必要です。シェルターは木や茂み、または人工的な構造物かもしれません。

寒冷地の飼育施設:カピバラは24℃以上の気温を好みます。もしカピバラを寒い冬場に飼育する場合、カピバラが凍傷にならないよう暖房設備と、風雨にさらされない小屋を備えましょう。

Juanita eating grass

:カピバラはいつでも草を食べられることは最低条件です。カピバラの消化機能は300万年をかけて食物繊維が豊富でカロリーの低い草を主食とするよう進化しました。南米の野生のカピバラは草や水生植物、スゲを食べ、低木や木の樹皮を噛みます。カピバラは歯の健康のため、キメの粗い物を噛んで歯が成長し過ぎるのをコントロールする必要があるのです。飼育施設の中では柔らかすぎる食べ物によって、歯の健康を維持できずに死ぬカピバラもいます。飼育施設であっても、動物たちは野生本来の行動を取れることが基本で、カピバラにとってはそうした行動の中でも草を食べることがとりわけ重要なのです。カピバラは1日2回だけ食事を取るよう進化しておらず、お腹が減ったと感じたらいつでも草を食べられる環境など、適当な食事が取れるようにしなければなりません。カピバラが空腹時に草を食べられるということはとても重要です。 

給餌:カピバラの食事には適当な人工飼料(ペレット)が十分な量を供給される必要があります。もし草が十分に提供できないのであれば、キャベツやレタスなどの葉物野菜を食べさせます。糖分の多い野菜は避けた方がいいでしょう。ニンジンはビタミンAを多く含み、カピバラの肝臓に負担がかかるので与えてはいけません。日本ではたくさんのカピバラが肝臓害度によって早くに死んでいます。興味深いことに、カピバラはしばしば自分たちにとって最適な食べ物が何であるのか理解しています。また、フルーツは糖分が多いので与えるべきではないでしょう。下痢の症状があれば、「Benebac」や「Bio 3」といったプロバイオティクスを与えることをお勧めします。 

適当な草木:餌として与える野菜にヤシの枝を含めましょう。ヤシの葉のベッドはカピバラが横になって休んだり、眠ったりするための柔らかい寝床を提供できます。カピバラは木の枝やヤシの葉などに自分たちの肛門にある臭いの分泌腺をこすりつけて、縄張りを示します。カピバラはとりわけヤシにマーキングすることを好みます。また、すでに説明したように、カピバラの歯の健康のために、噛むのに適したキメの粗いヤシの枝葉を与えるといいでしょう。カピバラの中には石を噛むのを好むのもいます。この場合、石を誤って飲み込んでも消化管を傷つけないように、石は噛み砕けない硬さでなければなりません。

Romeo swimming

飼育施設の中でも動物たちが野生本来の行動を取れることが基本となります。そして、来園者は動物たちが自然の中でどのように振る舞うのかを見ることがとても重要です。カピバラが大きなプールで泳ぐ姿はとても優雅です。柵の中で動物たちはとても退屈してストレスを感じているでしょう。倦怠とストレスを避け、カピバラの健康を維持するためには、カピバラのマインドを刺激するような認知的で職業的な作業を提供することが必要です。こうした活動には、上記のような適切な草木の提供のほか、カピバラが巧みに操って遊べるような自然の中の材料の提供も含みます。

餌をあげることもカピバラにとって楽しみの一つになるよう努めるべきです。例えば、笹を柵の中で毎回違う場所に置き、カピバラが後ろ脚で立ち上がって食べたり、脚を下ろしたりして食べられるようにします。笹を池やプールに突き出した木に固定すれば、カピバラが食べようとして浮き上がるのを楽しめるでしょう。ペレットを散らばった状態に置いたり、隠したり、複数の場所に分けたりして与えれば、カピバラが探しながら食べられるでしょう。上記のような活動は、餌という報酬にありつくために問題を解決するという認知能力を鍛えることにもつながります。

 感覚的・社会的な環境改善:カピバラはとても社交的で群れで生活することを好みます。カピバラを1匹で飼ってはいけません。それはとてもストレスですし、カピバラの行動や性格を変えてしまうでしょう。ストレスレベルは、コルチゾールなどのストレスホルモンが糞の中にどれだけあるかを分析することで分かります。過度なストレスは脳内の構造を変え、早死をもたらします。

カピバラはとても社交的で、触れられることにとても敏感なため、動物園の飼育係は優しくなでて、友達として接する責任があります。もし若いカピバラが人間との触れ合いを望まなかったら、カピバラの信用を得るまでに時間がかかるかもしれません。カピバラをなでたりできるまで親密な関係を築くには、飼育員は笹などの餌を与えて、カピバラが近寄って餌を食べている間にゆっくりとやさしくなでてあげるのがいいでしょう。カピバラはなでられてうれしい時には、毛を逆立てたり、寝転がったり、鳴いたりします。カピバラの鳴き声はとても美しいです。カピバラと人間がポジティブな友好関係を築くことは、カピバラが動物園や柵の中で幸福に生活する上で極めて大切です。

もし動物園の来園者がカピバラの柵の中に入れるようであれば、柵の中にカピバラに近づけない場所を設けることも必要です。カピバラが来園者から離れたいと思った時に、そうできるようにしてやるためです。人間たちと接するかどうかを彼らが選べなければストレスに感じるでしょう。人間から逃れるための場所は池の中の島というのも一つのアイディアでしょう。

WN one very muddy

 泥:カピバラは泥が好きです。よく泥の中で転がりますが、泥はカピバラの皮膚によく、体についたダニや寄生虫を落とすことができます。泥はカピバラの楽しみでもあり、癒やしでもあります。泥の中で転がることは自然な行為で、飼養下でもできるようにすべきです。

 五つの自由:「動物福祉」は五つの自由を基本とします。①空腹や渇きからの自由:健康と活力を維持するための食べ物や水が手に入ること、②不快感からの自由:小屋や心地よく休める場所など、適切な環境を提供すること、③怪我や病気、痛みからの自由:迅速な診断と治療の提供、④行動の自由:適切な飼育環境、適当な設備、同じ種類の動物を一緒にすること、⑤恐れや苦悩からの自由:精神的苦痛を避けるためのケアや適切な環境を提供することです。

 五つの福祉領域:これら五つの福祉領域の規定は、1965年に農場で働く動物たちの境遇を改善するため提唱されました。五つの自由の中身は私たちが課された基本的義務と言えますが、飼養下の動物たちや動物園の動物たちが期待するような幸福を人間が確実に実現できているかというと十分ではありません。私たちは動物たちに対して、楽しくてポジティブな経験を提供しなければなりません。ニュージーランド在住の「動物福祉」の研究者デイヴィット・メラーが提唱している五つの福祉領域がありますが、その目指すところはポジティブな身体的体験と心理的な経験を提供することです。これが「動物福祉」の基本であり、飼育されている動物たちの幸福の基盤となります。

 

Advertisements

Leave a Reply

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out /  Change )

Google+ photo

You are commenting using your Google+ account. Log Out /  Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out /  Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out /  Change )

Connecting to %s